前回に引き続き、キリストという言葉の意味についての解説です。
6.イスラエルの解放者が、メシアと呼ばれているケース
さて3つ目のケースは、イスラエルの民にとっての解放者(救済者)とみなされた人物が、油注がれた者、つまりメシアと呼ばれている場合です。
メシアというのは、「救い主」を意味する言葉なので、これが一番わかりやすいかもしれませんね。
今回引用するのは、旧約聖書のイザヤ書という所です。
ですがまずその前に、イスラエルの歴史について少し触れておきましょう。
イスラエルは、BC1000年頃に統一王朝を樹立しますが、後に南北に分裂をしてしまいます。
北のイスラエル王国と、南のユダ王国のふたつにです。
しかし北のイスラエル王国はBC722年にアッシリアに、そして後に南のユダ王国はBC586年に新バビロニア帝国によって滅ぼされます。
この時、大勢のユダヤ人が強制的にバビロニアへと移住します。
この出来事のことを「バビロン捕囚」と呼び、イスラエルの歴史を語る上で重要な時期のひとつです。
さてこの後、新バビロニア帝国はペルシャ帝国(アケメネス朝ペルシャ)によって滅ぼされます。
そして、ペルシャ帝国の王であったクロス王(キュロス2世)によって、それまで捕囚となっていたユダヤ人は、祖国に帰還することを許可されます。
これは、BC538年のことです。
このクロス王はユダヤ人以外にも、他の民族の文化を尊重し、その融和に努めたことによって、後世理想的な君主であると評価をされた人物です。
旧約聖書では、このクロス王について、次のように語っています。
「わたしはわが受膏者クロスの右の手をとって、
もろもろの国をその前に従わせ、
もろもろの王の腰を解き、
とびらをその前に開かせて、
門を閉じさせない、と言われる主は、
その受膏者クロスにこう言われる、」
(イザヤ書45章1節)
「『わたしは義をもってクロスを起した。
私は彼のすべての道をまっすぐにしよう。
彼はわが町を建て、
わが捕囚を価のためでなく、
また報いのためでもなく解き放つ』と
万軍の主は言われる。」
(イザヤ書45章13節)
ここで受膏者と訳された言葉は、「油注がれた者」を意味する言葉で、つまりメシアということになります。
確かにユダヤ人にとって、捕囚から解放したクロス王は、彼らの「救済者」でした。
だから旧約聖書では、本来異教の王であったクロス王を「油そそがれた者」、つまりメシアだと
みなしているわけです。
これが3つ目のケースである、イスラエル民族の救済者がメシアと呼ばれる場合です。
次回に続きます。
(2024年2月14日まぐまぐ!にて配信)
(このブログでは、日本聖書協会発行の口語訳を引用しています。
聖書 口語訳: ©日本聖書協会 Japan Bible Society
1954,1955,1975,1984,2002)